髙野史枝監督
インタビュー

「おっさんずルネッサンス」は、 監督が2015年に製作された「厨房男子」に
続く2作目のドキュメンタリー映画ですね。 製作に至るまでの経緯を教えてください。

「おっさんずルネッサンス」は、監督が2015年に
製作された「厨房男子」に続く2作目の
ドキュメンタリー映画ですね。製作に至るまでの
経緯を教えてください。

 前作の「厨房男子」は、「私の親しい男性(夫、息子、友人、友人の配偶者など)が、料理を作り、食べているところを撮った」というわかり易い映画でした。そんなシンプルさが気に入っていただけたのか、名古屋の映画館で1か月の上映が叶い、その後も大阪や京都、神戸、横浜などの劇場で上映、映画祭へも出していただけるなど、「ビギナーズラック」な作品になりました。劇場公開が終わった後も、日本中あちこちの自主上映会に招かれてお話する機会に恵まれました。そんな時、映画の中での反応が抜群によかったのが、「定年後のおっさんたち45人が挑む2500個のコロッケ作り」というパートだったんですね。「なぜみんな、あんなに仲良く楽しそうなんだろう」「高齢者がコロッケを上手く作るのにビックリ!あの腕はどこで磨いたの?」なんて感想や質問をよくいただきました。関心を持つのは、登場人物と同年配(60~70代)の男性諸氏。

その年代の方々は、「定年後の人生をどう生きたらいいのだろう。その参考にしたい」という切実な気持ちで映画をご覧になっていたのでしょうね。
 それを見て、「私は定年後の人生を楽しく過ごしているおっさんたちを知ってる。もしかしたら、大府のおっさんたちの生き方を『映画で見たいな…』と思う人は大勢いるのかも」と考えたのが運の尽き…ではなく、「おっさんずルネッサンス」製作のキッカケになりました。舞台になる愛知県大府市の施設、「石ヶ瀬会館(ミューいしがせ)」からも、ご協力いただけるというお返事があり、「厨房男子」でコロッケを揚げていたおっさんたちからも「ええよ~やろまい。(名古屋弁)」という「ご許可」が出たので、取り掛かることになった…というわけです。

大府市のおっさんたちを「撮りたい!」と 思った一番の理由は何ですか。

大府市のおっさんたちを「撮りたい!」と
思った一番の理由は何ですか。

 まずなにより「表情が明るくていいな」と思ったこと。ほら、高齢の男性って、眉の間にしわ寄せて、不機嫌そうな顔してる人が多くないですか?大府市の「メンズカレッジ」、「男楽会」のおっさんたちは「眉間にしわ」ありません。高圧的なところがなく、コミュニケーションを取るのが上手で、いつも楽しそう。ひとことで言うと、「いい顔してる」人が多いんです。  長らく大府市の「ミューいしがせ」で映画講座を担当していて、前作にも出てもらって、大府のおっさんとすっかり仲よしになりました。そのうち、「料理が上手く、女性と偏見なく話ができるステキなおっさんを生み出したのはミューいしがせの講座や活動の効果が大きいのでは?」とわかってきたんです。もちろん講座の内容が大事なんですが、もう一つ、おっさんたちに影響を与えているのが「メンズカレッジの姿勢」。

 ここは「前歴は一切問わない、言わない。上下関係のない平(たいら)な関係)」が前提になってるんです。これって、男性が集まる組織ではかなり珍しいのではないでしょうか。活動には全員が加わり、仕事は公平に分担します。つまりみんなが社会の裃(かみしも)を脱ぎ捨て、一人の人間として向かい合うことからスタートしています。市長がコロッケ作りに参加しても、先月まで県議会議員だった人がだし巻き焼いてても、みんな平気で「下手だな~」「アンタ、家でもっと料理せなイカンわ」と、ハラハラするほど遠慮がない。権力や肩書、上下関係から解放され(会社の毒気が抜けた…とでも言えばいいでしょうか)、家族や周りの人の役に立つヨロコビを知り、友だちと一緒に人生を楽しんでる明るい顔したおっさん…こんなチャーミングなおっさんたちだからこそ、撮りたくなったんです。

女性監督は、女性を主人公にして 描くことが多いですが、監督の作品は、
なぜ2作とも男性が主人公なんですか。

女性監督は、女性を主人公にして
描くことが多いですが、監督の作品は、
なぜ2作とも男性が主人公なんですか。

 私は「映画界にもっと女性監督やスタッフが増えなくてはならない」と、ずっと言い続けてきて、とうとう自分も監督になってしまったようなヤツです。それは「女性監督は女性の発想が理解できるので、男性監督とは違う視点で女性像が描けるはず。映画でそれが見たい」という自分の思いが強かったからなんです。ここ10年近く、女性監督の数は飛躍的に増え、毎年行っている「大阪アジアン映画祭」では、2019年コンペティション部門に入選した14本の作品中、8本が女性監督の作品だった…というほど女性監督の数は増えています。
 ご質問の通り、女性監督は女性を描くことが多いです。男性監督が「解釈」した女性ではなく、女性監督が描いた女性像を見て、男性が女性への理解を深める…という状況が、もっと進んでほしいです。それと同時に私は、「女性はこんな男性が好き。男性にこうなってほしいと思ってるのよ~」という積極的なアピールがしたいな…とも思いました。ドラマではなく、ドキュメンタリー映画なら、それができるんじゃないかな…と思って「厨房男子」(2015年)を作ったんです。内容はズバリ、「女性は料理する男性が好き!」。

わかり易いですね。では、「おっさんずルネッサンス」という映画で、私がアピールしたいことは何か?それは、「男性がシアワセに暮らしていないと、女性もシアワセになれない」です。結婚している人は、夫の定年後、イヤでも顔を突き合わせる時間が増えます。そんな時、夫が、「やることも行くところも友人もなく、終日ムッツリして家から出ない」という状態になったら、妻はどう思うでしょう?(しかも食事は3回キチンと食べる!)「こんな生活イヤ!」と思うに違いありません。こんな状態の夫も大してシアワセではないでしょうが、妻もまた不幸せです。実際私の女友だちなどは、「定年後、夫が毎日家にいるかと思うと恐怖」「そうなったら離婚を考えるね」と言ってますし。
 でも、大府の「ミューいしがせ」の「メンズカレッジ」講座生、そこを卒業した「男楽会」の皆さんは、やることがいっぱい、家族にも地域にも溶け込んで、楽しく暮らしています。こんな「豊かなセカンドライフを送るおっさんたちをお見せしたかった」。  これが、男性を主人公にした「おっさんずルネッサンス」を作った理由です。

この映画を、どんな人たちに、 どんなふうに見ていただきたいですか。

この映画を、どんな人たちに、
どんなふうに見ていただきたいですか。

 やはり、定年が視野に入ってきた男性、その家族の方に、ぜひ見ていただきたい!
定年後を過度に恐れるのでもなく、楽観視せず、「今までとは違った人生が始まるんだな。そのために考えておかなくてはならないことがあるんだな(経済的な問題は知りませんケド)」と知っていただけるといいなァ…と思います。実際、この映画にはいろいろなヒントがあると思います。自分の親がこの年代に差し掛かっている方も、「親へのアドバイス・励まし」のためにもご覧になっておくといいのではないでしょうか。

親が無気力になったりすると、結局負担は子どもの肩にかかってきますから…。
 また、自治体の「生涯学習」「高齢者関連部署」の方々、地域の公民館や女性会館などの方々に見ていただけたら、地域の方々の求めているものを知るきっかけになり、今後の支援活動がより的確なものになるのではないかと思います。
 ま、結局、「皆さん見てくださいね~」に尽きますが…。

ドキュメンタリー映画『おっさんずルネッサンス』

ドキュメンタリー映画
『おっさんずルネッサンス』

出演:「メンズカレッジ講座生」「男性の生活自立のための講座生」
「男楽会」「おおぶ青春ベンチャーズ」
「楽農クラブ」ほか、大府市の男性たち、それを支える女性たち
撮影場所:大府市「ミューいしがせ」、「健康の森」ほか大府市内

出演:「メンズカレッジ講座生」
「男性の生活自立のための講座生」
「男楽会」「おおぶ青春ベンチャーズ」
「楽農クラブ」ほか、
大府市の男性たち、それを支える女性たち
撮影場所:大府市「ミューいしがせ」、
「健康の森」ほか大府市内

後援:大府市 大府市社会福祉協議会 大府商工会議所
製作協力:NPО法人ミューぷらん・おおぶ
石ヶ瀬会館(ミューいしがせ)
日本福祉大学 JAあぐりタウンげんきの郷
国立長寿医療研究センター

制作:おっさんずルネッサンス製作実行委員会
監督:髙野 史枝 (2015「厨房男子」監督)

Copyright © 2019おっさんずルネッサンス製作実行委員会